「建築のみらい」の可能性について

丹下健三が示唆するもの

| 林 |

 足早にここまできましたが、最後に、今回のタイトルが「建築のみらい」ということで、これからの建築の可能性について、丹下健三が示唆するもの、ということで、お二人にそれぞれ話を伺いたいと思います。神谷先生お願いします

| 神谷 |

 1つ目は構造改革。時代の変化に応じて都市・建築の構造を改革するのは都市計画家、建築家の責任である。

 2つ目は、記念碑性です。その時代の人々の共感を得て時代を代表するシンボル性、文化的記念碑性を表現するのは都市計画家、建築家の使命である。

 以上の責任と使命が全うされて全体の構成要素が分ちがたく結びつく、一種の結晶化が達成された時に初めて住みやすくて美しい都市と建築空間が生まれる。こういう提示をしています。

 次に、個別の様々な対策はあるけども世界が共同して持続可能な政策を実施しない限り人類の滅亡を防ぐことはできない。これはちょうど石油危機があったころの丹下さんの発言です。

 成長優先主義ではなくて、発展、すなわち生活の質の向上と環境構造の変革を重んじる。そういう価値観の転換が必要であると。成長と発展の言葉の使い分けをしていて、理解しにくいところはありますが、ディベロップメントのほうが英語では生活の質の向上とか、環境構造の変革を意味しています。新しい価値観を基にして、都市、農村漁村、建築、自然保護などについてエキサイティングな、すばらしいイメージを提示する意義は大きい。資源は有限であるが、人間の知恵は無限である。こういう言葉を丹下さんは残しています。

| 林 |

 ありがとうございました。
 次に藤森先生お願いします。

| 藤森 |

 すぐれた建築というのは、やはり「文化と社会の新しい方向性を示す基になる力がある」と思います。それは、「単体の芸術にはない建築の力」だと思います。やはり建築は、そういった力を失ってないし、失っていれば取り返さないといけません。この建物を見てそう思います。

| 林 |

 ありがとうございました。

 最後に、僕は、香川県のいくつもの建築や、建築に携わる人のことを知るにつれ、自分が生きていく上での熱量、エネルギーをすごく沢山もらいました。師山本忠司は建築家として自分の作品をつくる一方で、自分が携わった作品に対してすごく愛情を持って、香川の建築の魅力を広めていくことに努めていた人だと思います。僕は、自分自身が、それを継続していくことが、恩返しなのかなと思っています。

 子供達に、小学校、中学校の時から香川の建築やアートのことを学んでもらって、香川の人が自分の好きなうどん屋さんの事を語るとき、まるで家族のように語るというんですが、丹下健三さんのことや「香川県庁舎」のことも家族のように語ってもらえるようになれば、それが金子さんや山本忠司への恩返しになるのかなと思います。